音楽朗読劇『四月は君の嘘』感想

 1. はじめに

 2023/04/02㈰、音楽朗読劇『四月は君の嘘』(以下、君嘘)を観劇したのでその感想を。ただ、ツイッターのフォロワーや検索で見つかるような感想は大好評という感じだったのだが、私はそうではなかったので、好意的な人の目に留まらないようにこちらに綴る。なので、ネガティブな感想を見たくない人はブラウザバックしてください。

 前提として、今回は君嘘が見たくて観劇したのではなく、出演予定だった大西沙織さんの朗読劇を目的にチケットを取った。タイトルこそ知っていたものの、ちゃんと見たことがなかったので原作は全て読んでから臨んだ(アニメは見ていない)。恋愛漫画が好みではないので読んでいなかったのだが、思ったより人間の成長の側面の方がメインに描かれていたので楽しめた。

2. 背景

 ここで大西さんにとって今回の朗読劇がどのような意味を持っていたのかを示しておこう。彼女はアニメ君嘘でヒロインの宮園かをり役を受けていたことを、実際にそれを勝ち取った種田梨沙さんのラジオ番組「Salon de Tanedaへようこそ♪」(2022/04/25 第23回)で明かしている。その際吐露した悔しさは、オーディションから数年経っても残っているように見えたし、未だに作品を見れずにいるとまで述べていた。つまり、今回の朗読劇は彼女にとっては雪辱を晴らすような舞台になるわけだ。とは言え、アニメと朗読劇は全く別物であるし、アニメ放送時(2014年秋)はデビュー間もない頃であったため、朗読劇だからこその、今だからこその演技が見れることが私の楽しみにしていた要素であった。

 だが、残念ながら体調不良によって出演はキャンセルになってしまった。これで大西さんのイベント出演は一ヶ月に渡り3回連続でキャンセルになっているので大変心配。どうかご自愛ください。

 公演は夜の部出演の古賀葵さんが代役となり行われた。彼女にとっては体力的にも合わせていない相手との演技など大変な役回りとなったことは想像に難くなく、引き受けてくれたことには感謝しているものの、作品ではなく大西さんを見に行っている身としては、やはりやるせなさが大きかった。

3. 感想

 「音楽朗読劇」と題されていたことから、楽しみにしていたポイントとしては①どのような有馬公生・宮園かをりを演じるのか、②脚本・演出・音楽はどうするのか、という点であった。以下色々書くが、全て素人の感想なのであしからず。

 ①キャストの演技

 まず公演が始まって有馬公生役の千葉翔也さんに驚かされた。佇まいから所作まで公生になっていてとても引き込まれた。それは発声が変にアニメっぽくなっているわけでもなく、セリフを読んでいるというわけでもなく、文字通り自然に喋っていたことに起因しているのではないだろうか。特に序盤の恐怖や憂いの表現は会場の空気全体に作用していたように感じた。また、モノローグとダイアローグでの感情の機微も感じられてとても良かったし、何より色々な感情を内包している様がとても人間らしくて好みだった。

 他方で、古賀葵さんの宮園かをりは少々残念だった。もちろん代役であったし、千葉さんと合わせるのも当日だけだったのかもしれないが、終始アニメっぽい作ったような声が気になってしまった。当然アニメーションがあれば違和感はないのだろうが、朗読劇では姿形は見えず、そこにかをりが居るようには思えなかった。

 全くもって腐すような意図はないのでその印象の正体をたどっておこう。まず彼女が何を表現していたのかを考えると、何でも心から楽しもうとする姿勢、死を悟りつつも気丈に振る舞う様子だったと推察する。実際、パンフレットのインタビューでは「感情豊か」だが「虚勢」を張ったり「繊細」さを感じたと述べている。溌剌とした声や空元気のような笑いにはそれが出ていたように思う。ただ、かをりの音楽への情熱や芯の強さはあまり見えなかったし、(これは脚本のせいでもあるが)感情の変化があまりにも唐突で兆候すら見せないのでちょっと怖かった。しかし私が意識的に「見えなかった」と感じるということは、そうあることを期待していたということで、つまり自分の求めていた像と演じられたものとのズレから来た印象だったのであろう。他人には全く別様に見えたことだろうし、その感想も聞いてみたい。

 他のキャストに関しては、81プロデュースの新人声優と舞台役者が半々くらいのようだったが、どうにも芝居臭くセリフっぽかったのが終始気になってしまった。抑揚が強すぎて不自然さがあるというか。特にこういう点が気になってしまったのは、このキャスト陣の中で千葉さんだけが非常に自然体で、かつそれが自分の好みだったからかもしれない。

 千葉さんの演技があまりにも好みだし良かっただけに、大西さんとの共演が見られなかったことが悔やまれる。大西さんの演技で好きなのは、複数の感情が自然に同居している様子やどこか芯の強さを感じるところなので、千葉さんとの組み合わせは素晴らしいものになったのだろうと思わずにはいられない。

 ②脚本・演出・音楽

 そもそも朗読劇と謳いつつも、プロジェクションマッピングによる背景やエフェクトが映されていたこともあり、キャストには動作や立ち位置の変化が求められていて、台本を持ったまま行う舞台というようなものであった。

 脚本に関して、約2時間で原作11巻分のメインストーリーをなぞるのだからかなりの省略が必要なのは当然なのだが、練習や他人との関わりでの気づきは描かれず、公生がピアノに向き合い、自立する過程がなくなってしまったのが残念だった。公生の世界がカラフルに色づくのはそういった過程を通じてこそだったので。原作を読んでいなかったら正直ポカーンとなってしまいそう。ただあれ以上公演が長いと見るのもしんどいので難しい。

 また前節でも少し触れたように、急に泣いたり怒ったりと感情の変化が突然訪れていて少し怖い。あと会話のテンポが非常に速い。会話でも間を置くことなく進む(Aが喋り終わったらすぐBが喋り始める)ため、余計にセリフっぽさが出る、会話っぽくなく感じるのかもしれない。特に演奏中のセリフは解説そのものな上、生演奏に思いっきり被せられてあまりにも情緒がない。「音楽は自由だ」のセリフが皮肉っぽく聞こえてしまった。

 演出に関しては、会場全体にプロジェクションマッピングがあったのだが座席がかなり前だったこともあり、視界は舞台上だけであまりその恩恵を感じられなかった。ただ、ピアノとヴァイオリンの生演奏のおかげでとても華やかかつ繊細さが表れていた。特に物語上、演奏者が複数人出てきたり、公生の演奏が途中で変化したりする場面、演奏に失敗する場面など、素人でも分かるレベルで表現しており感動した。クラシックの知識があればもっと楽しめたのかもしれない。

4. 終わりに

 作品の総評としては、微妙だったという印象のほうが強い。朗読劇が自分に向いていないと言われればそれまでかもしれないが、「心に残り続けるもの」になったとは言い難い。これは君嘘という作品にそこまで思い入れがないことを差し引いても。むしろ、いわゆる泣き所のラストも過程が省略されている上、劇に入り込めなかったことであまり響かなかった。そもそもこれは原作を読んだ時から思ったことだが、かをりの死が、公生の母と重ねるという物語の構造と読者の涙を誘うためだけに使われているので好きじゃない。

 ただ、千葉くんの演技と生演奏の素晴らしさはたしかなものであったし、クラシック音楽への興味も出てきた。また、大西さんは参加こそできなかったが、彼女の演技のどこが好きなのかを再確認し、今後どんなものを見せてくれるのかが楽しみになった。

 随分と長くなってしまったが、これを機に大西さんへの向き合い方にも新たな気付きを得られたので(こちらはまた後日)、この朗読劇に参加した意義はあったのだろう。

コメント

このブログの人気の投稿

きっとまたあした。―6+7+8th Anniversary Live "Along the way"を終えて

キャン丁目へと向けたSalut! (サリュ!)

続・「推し」に寄せて